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新しい事業計画も持っていました。工場を建てて、売り上げを倍にしよう、そう思っていた。その頂点、売り上げがピークだったのは1990年。53億売った。私は、それを10年で100億にしようという計画を持ったんです。しかし、挫折した。53億の売り上げを持っていて、借金が30億くらいあったんです。28億くらいだったかな。星さんは当時を知ってるね。この次の塾で、お金の話をしようと考えています、経営とお金の話をね。とにかく、そういうことで、方針を変えました。我々は、大量に作る時代は終わった。じゃあどこで稼ぐのか、と言うと、量を減らして付加価値を稼がなければならないということになるんですね。そうは言っても、目一杯膨らんでいる会社が、一遍に変わることは出来ないんですよ。当然、３年間、赤字経営を強いられました。30億円近い借金をどう返すかということになるんですが、とても返せるわけはないんです。その話は、この次にします。

　そこで、私は全くお金にならないことから始めたんです。何をしたかと言うと、山を買いました。カラマツの山を20㌶買ったんです。何もお金を生まないんです。で、そのカラマツを間伐して、間伐したところにミズナラの苗木を植え始めました。これも何のお金にもなりません。何を考えたかというと、私は20数年、ミズナラの木をたくさん使ってきました。その頃、90年代になると北海道で伐採できるミズナラがなくなって来ていたんです。輸出したりした過去の経緯がありますから、その話をすれば長くなりますからやめますが、ミズナラがあったから、自分の会社はここまでやって来れた。しかし、そのミズナラがなくなった、輸入しなければ家具が作れなくなって来た。そこで、北海道のミズナラを復活しよう、と。今植えたって、使えるようになるまでに100年か、150年かかるんですよ。そんなこと百も承知なんです。だけども、今それをやらないと、北海道で家具を作ることすら出来なくなる。北海道の家具製造業者はなくなる。だから、とにかく木を植える、それを始めたんです。

　みんなバブルが崩壊して赤字に苦しんでいるし、同業者はどんどん倒産していくし、業態は急速に小さくなっていく。その過程の中で、お金にはならないけれども、社会貢献をしたかった。これは、価値観の180度転換期と言っていいことです。でも、それをやり始めると、まず会社の雰囲気が変わりました。社員の考え方が変わって来ました。私も、なぜそういうことをやるのか、それなりに私の言葉で丁寧に説明したつもりですけどね。会社の中では、いまこんなに赤字で苦しいのに、どうして山林なんか買うんだ、と言う人もいますよ。でも、そうじゃないんだ。我々にはもっと感謝の気持ちがなければいけない。100年、200年前に小さな苗木から育った木があったから、我々は20何年、ここで家具を作って来れた。我々は、それによって生きて来た。それがなくなりつつある。それでいいのか。つまり、社会との関わりなんです。社会貢献がなければ企業じゃない、そういうふうに考えを変えちゃったんです。変えたと言うか、変わっちゃったんですね。

　最初は数人の人間で木を植え始めたんですが、それが会社全体の行事になって、毎年500から1000本ぐらいずつ苗木を植えられるようになったんです。５年もやっていると、20㌶くらいの山林じゃ、もう植えられなくなったんです。もっと山林を買わなくちゃならなくなったんですが、そんなに山林を買っても仕方がないし、それほどお金があるわけじゃないし、これを限りなく増やして行くことはできない。であれば、もっと社会的に考えた方がいいということで、東川町の森林組合に相談して、我々が木を植える場所を探してほしいとお願いしたんです。その時には、もう家具業界全体に広がっていたんです。家具作りに関わっている人みんなで山に行って木を植えよう、そんなふうに広がっていたんです。共感を呼んだんですね。みんなが家具作りに行き詰って、自分の仕事の本質は何だと考え始めていたということもあると思うんです。やっぱり木を育てなきゃだめなんだと、共感者がどんどん増えて来たんです。