「デザイナーとプロダクト」 cosine one


cosine one のスタートから1年。2025年8月23日、テーブル、チェア、シェルフ、照明の4つのアイテムが新たに加わります。
デザイナー 河田 敏宏さんと、コサイン製品開発課長 森暁生(参照/「コサインのものづくり」製品開発)に、新製品誕生までの話を聞きました。

(2025年8月22日現在)

デザイナー 河田 敏宏 Toshihiro Kawada

1980年生まれ。2005年武蔵野美術大学卒業。在学中にヘルシンキ芸術大学(現アールト大学)にて学ぶ。2008年TOSHIHIRO KAWADA DESIGNを設立し、家具、プロダクトデザインの分野で活動する。
国際家具デザインコンペティション旭川2008にて、最高賞ゴールドリーフを受賞。
2022年より武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科非常勤講師。
2009年のリンクテーブルから始まり、エントランススツールやリーフラック、フォルクチェアやプラットソファまで、数多くのコサイン製品のデザインを手がけている。
「コサインで初めてデザインしたリンクテーブル。印象的だったのは、やっぱり手元に届いた試作の美しさでした。メープルの木肌、面取りの繊細さが、箱を開けたときの感動の原点だったと思います。」

cosine one 新製品群はどのような流れで形になっていきましたか?

河田:
製品開発とのやりとりの中で、特徴的な機能を持つサイドファニチャーを商品化したいという話になりました。
暮らしに必要とされる機能性を軸に、それを明快なかたちで表現する──そんな方向性が自然と定まっていったように思います。
コサインには、既に創業以来育んできた「cosine」と「cosine collection」という2つの製品ブランドがあります。その中で昨年スタートした「cosine one」は、次の世代のユーザーに向けて発信していくブランドです。
既存の2つのブランドと何か造形的な違いが必要だと感じていました。デティールに造形的なくせや過度な加工はあまりもたせずに、機能を素直に、明快に表現する生活道具。その考え方は、昨年開発に取り組む中で、少しずつ形になってきたものです。
今回の開発でも、機能にしっかり焦点をあてながら、現代の暮らしに自然とフィットするデザインを目指していきました。

それぞれの新製品エピソードを教えてください。

河田:
フローティングライト

天井からワイヤーで吊り下げる照明というのは、製品開発の森さんからのアイデアでした。それを聞いたときから、部屋の片隅で灯だけが浮遊しているイメージが頭に浮かびました。
また、高さを変えられることから、空間を演出する間接照明と、手元を照らす照明、2つの機能を持たせました。それを実現するために木製のハンドルを取り付け、そこにワイヤーや配線を集約し、できるだけシェードから他の要素を排除することで「浮遊する灯」というイメージに近づけることができたと思います。
普段は目に触れにくいですが、シェードの内側にある光源を支える木製フレームは、下から見上げたときも美しく見えるように配慮した部分です。

サイドシェルフ
ソファ周りや壁面で使うことを想定していたので、同じ製品を複数台組み合わせて、横並びにしたり、コーナーで直角に組んだりと空間に合わせてレンジできるのが特徴です。
収納部分は板材で構成されていますが、脚は無垢材を使用し、厚みを増して端部を丸く面取りするなど、柔らかい表情になるよう配慮しています。

ボックスサイドテーブル
正円の天板と長方形のボックスという幾何学的な組み合わせですが、見る角度や置くものによって様々な表情を見せてくれるサイドテーブルです。
彫刻的な存在感を持っているけど、リアルな生活の場でもティッシュボックスやリモコンなど散らかりそうなものが片付けられて、機能的な要素も併せ持つ、そんなテーブルを目指しました。

マイト サイドテーブル(大)(小)
好きな位置に高さを変えられるサイドテーブル。木製なので日常生活にも取り入れやすいアイテムだと思います。スムーズな上下昇降は森さんが納得いくまで詰めてくれました。
高さを調節するノブがこだわりでしょうか。一見機能性が際立つデザインですが、アクセントに旋盤で削られた木の柔らかい表情を取り入れることで、使っていくうちに愛着が湧くのではと思っています。

ウェービングチェア 
以前から木とウェービングテープの相性の良さ、そこで生まれる軽さや雰囲気がブランドイメージにも合いそうだなと思っていたので、今回思い切って製品開発に取り入れてみました。
ソファまではいらないけど、一人でゆっくり寛げる場所が欲しいと思っている人は結構いるんじゃないかと思っています。アームが無いので家族が増えれば2台3台と並べて使うこともできます。サイズは幅を少し広めに、座面を低めにしてゆったりとした姿勢がとれるように意識しました。
編み込まれたウェービングテープから、向こう側が透けて見えるので、木製だけど重さを感じさせずに軽い印象に仕上がったと思います。

2024年にスタートしたcosine one はどのようなブランド?

河田:
コサインとの商品開発を通して、ずっと意識しているのは外連味(けれんみ)のないデザインです。木という素材は、まな板のように、ただ四角く製材されただけでも、美しさを感じさせてくれます。刺身のように、できるだけその素材のままの魅力を活かしたたいという思いがあります。cosine oneは、それがより明快に表現されているように思います。
森:
cosine oneはエントリーラインであると考えています。まずは「コサイン製品を暮らしにひとつ取り入れてもらう」――そんな入口になれたらうれしいですね。製品のひとつひとつに、分かりやすい個性があるのも特徴です。

cosine one のはじまり── 

Tepee コートスタンドの「楽しさ」

河田:
昨年発売したcosine oneの製品のひとつ「ティピーコートスタンド」は、ネイティブアメリカンのテントの骨組みをヒントに、クロスする丸棒をデザインの要素としています。
今のキャンプやDIYブームも背景にあり、「自分で組み立てる」という要素が加わることで、より製品に愛着を持ってもらえるのではと考えました。
森:
コートスタンドは、梱包サイズを考えると、1本の支柱でも170cmほどになってしまうため、流通の面で課題がありました。
そこで、この製品は脚が中間の天板で分割できる構造にしています。でも、実際に組み立てたときには「分割されているように見えない」デザインになっています。
河田:
製品が届いて、箱を開けて、自分の手で組み立てる──その体験が、どこか「テントの骨組みを組み立てる」感覚にも通じている気がします。組み立てそのものも楽しんでもらえたらうれしいですね。

Tepee コートスタンドの「美しさ」

森:
設計用の3Dソフト上で脚の傾きや天板の高さを自在に変えられるプログラムを作って、河田さんと調整を重ねました。3D上で感覚を共有しながらプロポーションを少しずつ詰めていったんです。それと平行してラフモデルで実際に衣服をかけたときの安定感の検証――その両方を行き来しながら形にしていきました。
河田:
当初は脚が交差する位置に天板を設置しようと考えていましたが、それだと床と接する脚の広がりがせまく、荷物をかけたときに不安定になってしまう。そこで「交差する位置を上にずらしてみては?」と試行錯誤を重ねた結果、天板よりも高い位置で脚を交差させるという今の形にたどり着きました。
僕と森さんの間では、意匠的な美しさと使った時の安定感、その両方を大切にしながら、やり取りを重ねてきました。最終的には、それらが両立した“ベストなプロポーション”に落ち着いたと思っています。
強度や荷重バランスが満たされていることで安心感が生まれ、それが自然と「飽きのこないデザイン」につながっていくと思っています。

   

今回のcosine one新製品開発で見えたものは

cosine one のかたち──
あの“数ミリの調整の積み重ね”があったからこそ、シンプルだけど確かに「これ」と思えるプロダクトにたどり着いた気がします。

河田:
ボックスサイドテーブルの天板下の箱は、最初は幅と奥行きが同じ正方形で考えていました。
でも、CGやモックアップで「これだ」と思ってサイズを決めても、試作して実物を見ると、想像以上に小さく感じたり、板の面とロの字の面が同じ寸法でも、板の面のほうが圧迫感があって広く感じたり。
10ミリ縮めた後に5ミリだけ戻すーーそんな細かい調整を経て、最終的には幅と奥行きが違う、今の完成形にたどり着きました。
森:
図面上でシンプルで自然に思えても、実際に人が見たときの印象って、意外とそうでもないことがあります。特に素材が木だと、微妙な厚みの違いや面の取り方、木目の表情で印象が変わるんです。
河田:
だからこそ、数ミリ単位で形を整えていくことで、「心地いい」と感じられるかたちに、ちゃんと着地できたと思います。



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